自分の感情を対処できない十八歳の穂ノ香を追い詰めるかのように、
「周防さん知らないよな、こいつんカノジョやべぇよ、普通に可愛い。街で見つけりゃスカウトできねぇくらい可愛い。神、女神」と、
話しかけてくる男子は、十五歳の彼女には苦痛の元凶だったし、
彼だって可愛くない地味な女子にはイジる以外なら、とことん無視をしていたはずだ。
しかも、転校をする前、最後に交わしたの言葉は『嶋を好きなんだろ』の悪意ある野次だったはずだ。
それがどうしたことだろう。
船場をからかい嶋をけなす嫌な奴は、数年経てば気さくな青年になっていた。
「いやいや、俺はブス専ですから」
必要以上に弟を愛護していたお調子者は、いつの間にか特別な恋人を作っていた。
となると、内面も外見も何も成長していないのは穂ノ香だけで、やっぱり自分が嫌になりそうだった。
唯一仲が良かった亜莉紗は、中学卒業を機に華麗な転身をはかっていて、
久々に再会して知ったオシャレにこだわる彼女を薄っぺらいと見ていたのは、単なる負け惜しみだ。
確かに数年前は同じ派閥に属していたのに、キラキラ輝く権利を得た人に焦がれていただけだ。
穂ノ香は穂ノ香のまま何も変わらない。
たとえば同窓会に来ない協調性がない嶋を好きで、諦められないなら家に押しかけるなりすれば良いのに、
冴えない自分がそんな真似をしたらストーカーになるからできないと、
何もしないで言い訳ばかりして、ただ立っているだけだ。
勇気を出して紡いだ言葉は『楽譜を頂戴』――――
「……彼女、どんな人? すき?」
世界が変わったきっかけをくれたのは何?



