「あれ、周防さん、会費払ったのにもう帰るんだ?」
振り返れば、そこに居るのは決まった人。
お金がもったいないと肩を揺らし笑う人。
そう、中学社会で生きるには価値が低い穂ノ香なんかに気さくに話しかけてくれた奇特な人類は、この人だけかもしれない。
「、……え、っと。」
昔は周防と呼び捨てだったはずが、なぜだか不思議とサン付けになる変化が、
たかが三年、幼い少年を包容力ある大人にさせたのだと知る。
中学三年生昔の彼と高校三年生今の彼、どこか雰囲気が違って見えるのは単に髪色のせいなのか。
「東京行った奴、留学した奴、それから福岡の周防さんとか、みーんな律儀に参加してんのにさ? 嶋だけ居ないとかどんだけクールな嶋少年よ、なあ?」
サッカーのシュートが決まった小学三年生並の素直な笑い顔は、
冗談めかした彼の口調にぴったりだ。
「欠席一人、同窓会。嶋だけ来ないらしいよ?」
時間の都合で意中の人が遅刻してくるのではないかと期待していた穂ノ香の心は、
びっくりするくらい悲しがった。
ゴールキーパーに立候補しておきながら、八失点して負けるぐらいむなしかった。
嶋が居ないから、はるばる新幹線で駆け付けた穂ノ香が可哀相だといったニュアンスの笑顔を向ける物知りな少年。
――結局、何年経とうが失恋じゃないか。



