ーコンコン


「理央兄....?いるか?」


俺はユリの部屋のドアを開けた。


「葵様...。」


理央兄はとても悲しそうな顔をした。


といっても僅かに表情を変えただけだが。


いつもは無表情が多い理央兄にとっては珍しい表情。


「葵様にお願いがございます。」


「何?」


「ユリ様を忘れないでいただきたいんです。」


「急にどうした?」


「私...ユリ様がいらっしゃらないとなると一族の別の後継者候補に仕えなければいけません。

秋本家に仕える桜井家の長男はそういう宿命をもっております。」


玲央に聞いたことがある話だ。


「桜井家の掟です。」


そんなこと....。


「葵様は忘れないでくださいます。ではこの部屋を出てください。」


最後に一言。


「玲央と夏菜様、奥さまのご無事をお祈りいたします。ではさようなら。」


理央兄の目が“もう行け”と言っていた。


俺はユリの部屋を出るしかなかった。





ユリって本当に死んだのか?





俺は生きて還ってくることを信じて疑っていないからな....。



-葵side end-