割り切りの恋人たち【前編】

 ふたりとも大人になり、生きることの辛さを味わった。まさか生きていくことが、こんなにも大変だなんて学生の頃は思いもしていなかった。
 俺は弘美に事情を聴こうとはしなかった。
 弘美の左手の薬指には銀色の指輪がきっちりとはめられている。
 俺は未だに独身。
 そのことを、心ならず弘美は心配している様子だった。
「結婚しないの?」
 弘美は濡れた瞳で、俺の顔をやさしい微笑で見つめている。
「まぁな」と、俺は答えた。