レイが時間を確認し、クローゼットから黒い何かを取り出しているのが見えた。

同系色のネクタイを結び、軍服をはおり腕を通す。

手首に巻かれた銀色の腕輪は、確かに軍人だという証明。

しかし、以前見た物と少し違う事に気づく。

チェーンが3本付いている、と言うことは――。

「あら、おめでとう。昇進したのね。美味しいご飯を期待してるわ。最近メディアで有名になってる神の手を持つマッサージを受けたいわ。他には―――」

「何でも聞いてやるから今は行かせてくれ。あと“カノン君”には充分気をつけることだな。非協力的だということが分かった今、いつどこで君を監視してるか分からないからな。出来るだけマンションから出るな。…最悪、この部屋に匿ってもいい」

「な、何言ってるの?確かに少し変な人だけど、そこまでする必要は――」

「アリス」


脇の下に手の平を入れられて、体を抱えあげられる。

レイより少し視点が高くなり、彼を見下ろすような形で体が宙に浮く。

紅茶色の瞳が私を見つめて、私の金色の長い髪が、レイの軍服の紺色と混じる。

少しだけ気恥しくなって、視線を反らすとレイの腕が私の腰に回ってきた。


「私の言う事は、全て“はい、わかりました”だ。理由は聞くな。予定が変わったんだ、あまりに最悪な方向に。だから、だからなアリス。何も聞かずに私の言う通りにしてくれ。わかったな、アリス」

「わかったわ、レイ。何も聞かないから、ずっと傍に居てね。そうじゃないと…猫だから他の所にふらふら行っちゃうわ」

「努力するよ。可愛い飼い猫が餌を家でご飯を待ってるんだ。他の所に行かれないように気をつけるよ」

「…お仕事頑張って。お土産は高級シフォンケーキね。いってらっしゃい」


ストンと床に下ろされ、耳元に柔らかい彼の髪が触れる。

ヒラヒラと手を振れば、レイが苦笑いして部屋から出ていく。

それを確認した後、部屋に備え付けられている高級スピーカー搭載の端末をセットする。

ふかふかのソファ―に、はしたなく寝転んでお菓子を頬張った。

音楽が部屋中に広がり、私の耳に荘厳な音を届ける。