「子供は子供らしく我が侭言ってろ。変なこと気にするな。お前はまだ何かを諦めるには若すぎるんだよ。好きな子が居るなら、守ってやる、それでいいんだ。守れないとか、悲しい事言うなよ。お前は守れてたじゃないか、ローズの事。傷一つ見当たらないじゃないか。お前は凄い、俺が保証する」

「…そっか。俺…ちゃんと、守れてたんだな」

「そうだ。それに俺も…フェアな勝負で勝たないと気分が悪いだろ?」

「ったく。後で泣きっ面で返して~なんて言っても、絶対に聞いてやらねぇからな」


ニィッと子供の様に笑うノエルに、あまり生意気を言うんじゃないと釘を差しておく。

ノエルと話しているとローズが待ちくたびれたように声を上げ、やれやれと病室から出る。

ストークス本家に入出する際、和装をして行くのが決まりで、使用人や来客者も同じだ。

本家に住む兄さんや姉さんも和装を義務付けられ、私服も最低限和装と決っている。

ストークスの人間だと言う事を誇示したいのか、本家筋ではなくとも好んで着る人間も少なくない。


「着替えに帰るが…ローズは留守番してるか?」

「いいえ、ウィルに付いていくのです。お着替えは嫌いですけど…ローズは会いたい人が居るのです。だから…邪魔じゃないなら連れて行って欲しいのです」

「アリスの事なら任せろ。それにローズの着物も折角の機会だから、袖を通しておくのも悪くないな」

「ありがとうなのです、ウィル。本当に…ありがとう」


夕焼け色に菊や椿が咲き乱れた着物を着付け、最後の仕上げに帯を結んでいく。

蝶結びもいいとは思ったが、どちらかと言えば浴衣向きの涼しげな印象が強いので断念する。

帯を薔薇の様に見せるために纏めてゴムを使い、開かせ隠し紐で固定する。

薔薇を象った帯結びは、自分でも満足するほどの出来映えだった。

蜻蛉玉を帯飾りとして付け、髪に同系色の花飾りをピンで固定し完成。

呼んでおいた車に乗り込み、和装をした俺とローズはストークス本家へと向かった。