「初めまして。私はシオン・ラトゥールと申します。以後お見知りおきを」
「え…っと…アンネローゼ、なのです。ローズと呼んでください」
「私が兄様の客人を愛称で呼ぶわけにはいきません。アンネローゼ様と、改めさせて頂いても…?」
「はい…大丈夫なのです。…うぅ…ウィルっ…」
堅い空気に耐えられず、俺の名前を読んでどうにかして欲しいと意思表示をするローズ。
昔は此処まで、いや、ほんの一年でシオンは完璧と言えるほど洗練された淑女となった。
ストークス内での序列第2位という名は伊達ではない貫禄さえ感じる。
出会った数年前の彼女と比べると、人が変わったように穏やかで神聖な空気さえ漂う。
「シオンちゃん。ウィリアムは可愛い恋人とお出掛けみたいですわ。お邪魔虫は退散しましょう。よろしかったら、この前の花札の続きでもいかがかしら?」
「えぇ、リゼル姉さま。では、また私の部屋で。宜しければお料理の試食もお願いできますか?」
「喜んで。行きましょう、シオンちゃん。…ウィリアム、この埋め合わせはまた後日。今度は“約束”をして来ますわ」
「失礼いたします。兄様、アンネローゼ様」
まるで本当の姉妹の様に草履の音を重ねて、元来た道を戻っていく。
悪い気はしたが、今はローズをノエルに会わせる為に病院へと連れて行くのが先決だろう。
後で埋め合わせはするとして、ローズを車の助手席に乗せて安全の為ベルトを締めさせる。
運転を自動へと切り替え、病院までの距離と時間が表示された後、車が動き出した。
