独:Der Alte würfelt nicht.

 
 
「僕は君が好きだよ。君はとても綺麗だから。君が口悪く僕を罵っても、泣き喚いてヒステリーを起しても。事故で顔が潰れさえしなければ、嫌いになんてならない」

「…なんだか褒められてる気がしないのだけれど。まぁ…私の初恋は貴方だったようだし、批判的な意見を言うと墓穴を掘りそうだわ」

「それに、今チャンスだから。ご傷心のアリスちゃんを優しく包んであげれば、ふらふら~っと僕の所に来るかもしれないし。ね?」

「ふふ、何よそれ。私に言っちゃ駄目じゃない」


――嗚呼、私はあれだけ想いの摩り替えに後悔したというのに…。

私の中心で歪に枝を伸ばし枯れてしまった木に、ポツリ、と一滴の雫が落ちる。

“彼”の為に育てた木に水を撒くのは、まったく違う他の男。

もし木が生き返って花を咲かせ実を育めば、もうそれは“彼”への想いの木ではない。

貴方の愛情で木が潤えば、その時はきっと、貴方の為の木になるでしょう。


「今日の晩御飯何にしようか。外に食べに行く?それとも…」

「ビーフシチューが食べたい」

「僕はアリスが食べたいな」

「帰れ」


抱き寄せられていた胸板を押し返し、ぷいっとそっぽを向いてみる。

後ろでクスクス笑う声に便乗し、お互いに顔を見合わせて笑いあった。

病室の壁に掛けられていた制服に着替え、彼に手を引かれて病院を出た頃にはすっかり夜。

レトルトになってしまった晩御飯に文句を言いつつも、温かな食事にやっと肩の力を抜く事が出来た。