「目の前で“母”と呼んだ女が死んでも…結局、大ァ好きなレイの事ばっかり。それでいいんだよ、誰も君に聖女を演じろなんて言っていない。アリスはもう…夢から覚めるべきなんだ」
「…私、が…ッ」
「アリス…」
「あの時…私も、…死んでいれば…よかったね…」
首を圧迫するカノン君の手に両手を重ね、もう二度と覚めない眠りを求めて力を込める。
喉に突き立てられた親指に呼吸が止まり、緩やかに意識が遠のく感覚に瞼を閉じた。
意識を手放そうとした途端、柔らかな髪に頬を撫でられた。
大きく息を吸う音と同時に、唇が塞がれて肺いっぱいに生温かい空気を入れられる。
「…けほっ…ごふっ…うっ、ううう…」
「やめた」
「な、んで…ッ」
「勿体ないだろ?」
「な、にが…ッ」
「一度も使わせてくれないなんて、さ」
塞がれていた唇は離れたのに、彼の前髪は名残惜しげに私の額に張り付く。
深い泉の底を映したエメラルドの瞳に私が映り込み、細められると閉じ込められたような錯覚に囚われた。
表情はどこまでも優しく、人懐っこい笑顔を浮かべているのに、どこか冷やかに見下されている。
編み込まれた三つ編みを解こうと手を伸ばすと、抱擁を強請られたとカノン君が思ったらしく、そっと抱きとめてくれた。
