「…今は殴らない。いつか突然殴るから。その日まで私の拳に恐怖に怯えるがいい」
「え、えぇ…そ、それは怖いな。僕は自由を生きる男なのに」
「確かにそうね。その髪型も素敵だわ。メッシュもいいけど、私はシンプルなのも好き。そういえば、貴方の弄ってない髪形って見たこと無いわ」
「そうだっけ。アリスは綺麗だよね。髪も、顔の作りも完璧だ。見てくれだけは最高傑作。でも、性格だけは…父親似だよね」
躊躇いも無く振り下ろされた無慈悲な言葉は、私の心に容赦なく抉った。
“父親”とは誰の事を指すか嫌でも思い知らされ、あまりに意地悪な彼を振り払うことすら出来ない。
心の一番深い所に根付いた恋の木が、害虫に犯され満開だった花を冷たい地面へと落とす。
レイへの憧れが恋の種になって、愛情を与えられ芽を出し、ほんの少し前までは実を付け始めるほど満開だった私の木。
あまりに深い部分で枝を伸ばし、内側から私を腐敗していく彼への思いは…あまりに大きすぎた。
「僕たち黒羊はね、心の最深部に“核”を持っているんだ。人間を形成する原子、それが根底となって“感情”や“想い”になる。人工的に形成できない、人の本質。でも…そこが傷つくと、形を保っていられなくなるんだ。悲しいことも分からない、楽しい事も分からない。人は自分で本質を見つけられないから、必死で取り繕って、爛れて行くのを見て見ぬ振りをする」
「私は、今…悲しいのよ。だってほら、こんなに涙が溢れるもの」
「涙なんて出てないじゃないか…泣けないくらいに、君の核は傷ついたんだ。代用品を、早く探すしかない。一度疑ってしまえば、二度と信じられない。君は、自分の本質を疑って…否定してしまったんだ」
「前回のあれは私の夢じゃなく、今回の事も事実だったのね。元あった幼少期の記憶と、新しく知覚した“情報内容”に誤差が出てる。でも…前回は…記憶を巡られる前、酷い激痛がしたの。でも今回は…まったく痛みが無かったわ」
