独:Der Alte würfelt nicht.

 
 
「もう、靴は脱いで。ウィリアムとの婚約を強く押したのは貴方でしょう?別れるようにいったのも貴方。貴方の大切なアリスちゃんを監視するために、学園の特別講師になれといったのも貴方。貴方のために、私は働いてあげているのに」

「君に口では敵わないようだ。では、私を殺さないでくれよ?エリザベス」

「私は貴方に投資しているの、そんな馬鹿な真似はしないわ。アリスちゃん、前回のは夢だと思っていたみたいだけど。今回ばかりは、気づくでしょうね」

「構わないさ。アリスなら…分かってくれるよ」


記憶に関する全てをデータ化している黒羊第二世代には、パンドラ内に格納されている記憶部にアクセスすることによって他者でも知覚することが可能だ。

アリスの幼少時の記憶は、彼女が施設を出る際、日常生活の妨げにならないようにロックを掛けている。

だがそれは建前で、彼女の記憶を格納するサーバーの最深部“ある物”を保管しているのだ。

本来ならパンドラにアクセスし、簡単な承認さえすればそれは手に入るのだが…パンドラ自体を動かせない為に困難な状況となっている。


「まったく。知覚出来ないように最深部に置いたのが間違いだったか。パンドラさえ動かすことが出来れば、物の数分で済む話だというのに。機を待ちすぎたな」

「最深部までアクセス出来るようになるのはいつの事やら。パンドラが沈むのとどちらが早いか、微妙ね」

「私が死ぬ方が早そうだ。では始めよう。お手柔らかに頼むぞ、アリス」

「拒絶の為弾き出された場合、前回と同じように混迷状態になるわ。気をつけて」


衣服が濡れるという実感は無く、暖かい毛布に包まれる感覚のほうが正しいだろう。

出来るだけ早く済ませようと肺の中一杯に保護溶液を飲み込む。

一瞬の息苦しさと引き換えに、常温の液体が空気の変わりになる。

薬剤が注入されると同時に酷い眠気に襲われ、私は子供のように膝を抱えて眠った。