独:Der Alte würfelt nicht.

 
 
「――今から向かう。エリザベス、準備は出来ているか?」

『えぇ、平気よ。アリスちゃんも安定しているわ』

「そうか。前回は事前に小細工を施したが…今回ばかりはハーグリーヴスの駄目息子がアリスに余計なことを吹き込んだ所為で拒絶されている。戻ってこられるかも分からないからな」

『…貴方も大変ね。国のため、世界のため、パンドラの為に働いているというのに。誰も理解されずに憎まれるなんて損な役回りだわ。アリスちゃんにも血縁関係だとバラされてしまったのにね』


電話越しに同情の言葉を掛けるエリザベスだったが、その割りに楽観的な口調だった。

彼女も私と同じ“第一世代黒羊”であり、現在ブランシュ家筆頭秘書官を任されている。

パンドラ第一エリア高等学園で遺伝子学の講義を行うこともあるが、学園自体に席は置いていない。

ウィリアムの元婚約者でもあり、研究員でもある彼女は様々な顔を使い分けている。


「君はいつも手厳しい。私を咎める君の気持ちは分かる。だが人間は心を繋ぎ合せることは出来ないだろう、もしその方法があるとしてもゾッとするよ。真っ平ごめんだ」

『意識を共有し合える第二世代は、物理的に可能だけれど――。でも私達第一世代は…人並み以上の能力を持ち得ただけで、心の中なんてモザイクをかけないと見られないものだわ。その点、二世代目はクリアなものね。確立された技術の上での完成品なんて羨ましい』

「失敗作の我々としてはな。パンドラを救うのは第二世代の役割だ、私たちは泥に塗れて地上を這い土台を作る“だけ”だ」

『パンドラを救うという大義名分を押し付けられた二世代は、現状の把握が出来ていないみたいだしね。特にローズちゃんは厄介ね、パンドラを外部から操作できなくなった今、“彼女”のやりたい放題だもの』


数箇所の承認を済ませ、施設内の中枢に近いゲートを潜り、手首のIDを翳す。

最終チェックの後、軽い挨拶をして電話を切った。

分厚い扉に設置された機械に暗証番号を入力すると、中央から四方に線が描かれ光が溢れ出す。

私を導くように光の道が開け、あまりの光の量に耐え切れず目を細めた。