独:Der Alte würfelt nicht.



 ――それからほんの数日後、本家の自室にあった物が全て運び出され、郊外に新築された家に全て移された。

以前使っていた部屋にはシオンが住む事となり、泣きながら謝罪する肩を支えて背を擦った。

話を撤回してくれと、着物が皺になる位に握りしめて俺に詰め寄ってくるシオン。

艶やかで優美な朱の着物が、彼女の黒髪に映えて妖艶な色気を醸し出す。


『――明日パンドラ国立学園高等部の入学試験を受けてもらう。生活に必要な物は使用人に言いつけろ。あと不便があったり、兄さん達にいじめられたら俺に言うんだぞ?』

『あ、なた…ッば、馬鹿じゃないのッ!!じ、じ自分が何やったか分かって…ッ!ストークスの継承権なんて――しかも実子の…!?今すぐ撤回してッ!!私は、これ以上貴方に迷惑かけるわけ…』

『無理。父さんの前での誓約だから…俺が土下座したって覆らない。それに父さんがお前を認めたんだ、俺は身を引くのは当り前だろ?それに俺は次男だから期待もされてなかったし、お家騒動からドロンできて万々歳なんだよ』

『嘘…よ、そんなの。プライドを引き裂いて得た結果に満足していないッだからそんなに…悲しいんでしょう…?』


冷たいシオンの指が俺の頬を撫で、労わりながら触れてくる。

俺の目元を指先が拭うたびに、着物の袖に付けられた椿の香りが鼻を擽った。

シオンの細い肩に抱えていた重荷を移した罪悪感と、悔やみきれない負の感情が混ざり合う。


『お前は今日から俺の妹。表沙汰にはまだ出来ないからシオン・ラトゥールと姓を変えるんだ。俺は大丈夫、お前の幸せを願っているよ。あとこれ、選別。お前の為に作らせたんだ』

『…あ、りがとう…ありがとう。…兄…様ッありがとう、シオンは頑張りますッ!失望されない様に勉強も作法も全部…ッだから、ちゃんと出来る様になるからッ!!貴方は私の世界を作った人ッ!大切な…大好きな人ッ…何があっても私は…兄様を見失ったりしませんッ』


ストークスの直系の人間を表す焼印の打たれた蝶柄の扇子を渡し、シオンの顔をまともに見れなくなる前に、踵を返して部屋から立ち去さる。

震える声を押し殺して、片手を軽くあげてシオンへ別れを告げた。

一週間後、レイ・シャーナスのもとに一軍人として入軍することが決まったのだ。