『シオンをストークスの人間として迎え入れたい。閨閥は何があってもさせない、シオンの意志を尊重して最高の環境で学ばせたい。俺が後見人にもなる、あとはこの書類にサインをもらうだけだ。貴方の息子として頼んでいるんじゃない。次期当主候補序列第二位のウィリアム・ストークスとしての願いだ』
『兄の陰に隠れて学業を呆けていた者が序列を語るか。お前が後見になろうがならまいが、私の娘になる事には変わりは無い。他の養子縁組とは違って、私の一部にこの娘が組み込まれる事になる。相当の代価を寄こせばサインをしよう』
『代価、とは…いかなるものでしょうか。支払える物なら…喜んで差し上げます』
『その娘を我が子と認めるには条件がある。息子よ、我が座を奪い合う権限を娘に明け渡せ。さすればこの娘を我が子として認めよう。お前の責務を、その人の子が果たせ。どうだ、飲めるか?』
父さんはシオンの肩にかかるほどの黒髪をかき分けて、白い首筋に指を這わす。
その動作に不道徳な物は感じられず、髪の間などを丹念に探していた。
柔らかな耳の骨が外側にめくられ、居心地の悪さにシオンが離れようとする。
そんな抵抗は空しく、父さんは未だ嘗て浮かべた事の無い狂気的な声を上げた。
『…嗚呼ッ!何と言う不吉な巡り合わせか。番狂わせには丁度いいッ!!我が息子よ、お前は私の憂いを晴らすために生まれ落ちたのだなッ!!愉快だ、お前は本当に卓越している!!これほどの奇跡を…招き寄せたと言うのか…ッ!』
『父さ、ん…俺は…!!シオンを学ばせたいッ…!それが叶うと言うのなら…俺は――よ…放棄する…継承権を…放棄、する…ッそうすれば…シオンを、ストークスの人間として閨閥もさせずに置いてくれると言うのなら…ッ!!』
『継承権を剥奪された人間は、特権さえも放棄せざるを得ない。約束された軍幹部の座も失い、一軍人としての生を全うする事になる。お前は…事の重大さを理解できているのか?』
『分かっているよ。俺の覚悟の末の決断だ。シオンを…俺の後釜に。そして、貴方の娘に…してください』
頭を下げ俯いた俺には、目の前に広がっていた景色がもう見えない。
足元でグシャリと踏みつぶされた鳥は、俺を嘲るように笑っていた。
