――当主になる以前は、千代紙の折り方一つ知らない厳格な父親だった。
期待を一身に受けているのは兄だけで、幼い頃は俺など見向きもされない。
現当主蟲籠蓮苑もといレイン・S・フェンネル・ストークスは、前当主の嫡男ではなかった。
正妻との息子ではなく、培養された試験管ベイビーだった父さんが当主の座まで上り詰めた。
ストークスの前当主の嫡男が居たのにも関わらず、現当主としてストークスに君臨している。
――そんな父さんが…折り紙を折ってくれとせがむなんて。
父さんが放り投げた鳥を拾いあげていると、シオンが千代紙を凝視してブツブツ呟いている。
金や朱で描かれた原色に近い花柄、陳腐な動物の絵、蝶や扇子、亀甲や花籠。
艶やかな表情が千代紙を透かし見るだけで、風情があり趣を感じられた。
細く白い指でなぞる様に織り込み、裏返しては表に戻し、丁寧に端を合わせる。
『人の子よ、何を折っている。私の目に適う物なら菓子をやろう』
『当てる事が出来ましたら、私の両手の平を開きましょう。もし外れる事があれば…彼の話を片時でも聞いて頂けますか…?』
『面白い、愉快な人の子は好ましいものだ。そなたの手の内に隠れているのは鳥である。愚鈍な我が息子に折れと命じた。もし私を欺く様な事があれば…己の身に災いが降りかかる事は逃れられぬ』
『それは怖い。ならば私は裁かれてしまうのですね。かの有名な蟲籠蓮苑当主にこの様な真似をして…』
何処までも優雅な仕草で父さんに近寄り、塞がれたしなやかな両手の平を開いた。
二人とも食い入るように凝視し、手に乗せられた折り紙を見て表情を曇らせた。
黒の地に金鶴が描かれた千代紙が象るのは、鳥とはお世辞にも言えない“蝶”。
今にも羽ばたく瞬間を待ち侘びるような躍動感が伝わり、繊細な折り込みは見事な物だった。
