『――お兄さんッ!ちょっと待って!待ってってば…ッ!!』
『ん。追いかけてこなくてもよかったのに。後から正式な箔押の書面を送ってやるよ』
『私…こんな事になるとは思ってなくて…ッ!どうお礼を言ったらいいか…出来る事なら何でもします!こんなに素敵な事って生まれて初めてで…ッ私どうすれば…!』
『おいおい、さっきまでの威勢はどこに行った?俺はお前に感謝されようと思ってやったんじゃないし、礼を言われる筋合いも無いぜ。俺はお前の無礼な振る舞いの代償として、本の管理を押し付けたんだ。虫は食うし黴臭いし最悪のプレゼントだろ』
シオンはその白い頬に数え切れない筋を伝わせて、俺への感謝の言葉を続けた。
濡れた彼女の頬に舞い乱れる花弁が張り付いて、桜色に染まる。
それから俺はスケジュールを切り詰めながら、シオンのいる施設へと足を運んだ。
夏は木陰の下、秋は木葉を栞に――そうして幾つもの季節が過ぎ、雪が降り積もり肌を刺す冬の季節がやって来た。
霜の降りた次の日、俺とシオンは和装しストークス本家の当主…俺の父親の書斎へと足を踏み入れていた。
『――シオンをストークスの人間として受け入れたい。最高の環境で学ばせたいんだ。知能テストも素晴らしい出来だった。将来的にパンドラにとって有益な人材になることは明白だ』
『我が子よ。久しく口を開けば…戯言ばかりを口ずさむ“烏“になり失せたな。嗚呼…鳥が怯えて逃げ失せる…。我が息子よ、代わりを折れ。さすれば褒美をやろう』
『こんなに散らして…幾つ作ったら気が済むんですか。話を聞いてくれ父さん。いや…第17代蟲籠蓮苑殿下。』
『折らぬと申すか。我の願いを聞き入れずに己の欲だけを成就させようなど…腑抜けた事を言いおって。その過程において我にどの程度の益があるか見せてみよ。我が息子よ、問いに答えるのだ』
書斎として使われていた部屋に金刺繍の施された布団を持ち込んでいるのは、俺の実の父親。
蟲籠蓮苑と呼ばれているが、当主になる以前はレイン・S・フェンネル・ストークスだったらしい。
悪趣味で煌びやかな掛け布団をすっぽりと頭から被り、病的なほど青白い腕が伸ばされる。
原色に近い和柄の千代紙が部屋中に散乱し、その中の一枚を布団の中に引き込んでいた。
