『――今回寄贈させて頂く本はストークスの蔵書の一部であり、文化的にも価値のあるものばかりである。リジイア児童支援施設の発展に貢献できたら幸である。今後ともよりよい…』
読みたくも無い文章、心にもない感謝の言葉、強要された合唱曲。
出来過ぎた舞台劇の様な時間に耐えられず、シオンの姿を目の端で探した。
講堂に本を持ち込んだ事を注意されているのか、大切に扱っていた本で頭を叩かれている。
ただの教師から生徒への指導だと割り切ればよかったのに。
俺の中で、何かが音を立てて壊れ始めていた事にやっと気付いた。
『…やめる。止めだ、止め。施設への本の寄贈は取り止めだ』
『…え、あ…そんな…ッウィリアム・ストークス様!何かお気に触るような事でも…』
『支援金が欲しいんだろ?金なら払うから問題は無い。寄贈先の変更だけだ』
『それは…えぇと、どういう意図で…?』
壇上から下りると周りが騒ぎ始め、俺に駆け寄ってくる施設長を軽くあしらう。
手を書類の裏側に置き、寄贈内容を書かれた一部を横線で訂正し、ボールペンで書き加える。
シオンの本を奪った教師が俺を見て下がろうとするが、半ば無理やりそれを奪い返した。
嫌味を込めて表紙をハンカチで拭き、書類と共に目を丸くするシオンに本を返す。
『総数2219冊シオン・リジイアに贈る』
『…え、あ…はっはいっ!ありがたく頂戴します!!』
俺から本と書類を受け取り、ボールペンで修正された箇所を見て息を飲んだ。
本来の総数は1219冊だったが、“おまけ“をして1000冊分色付けする。
返された本を胸に抱きしめ、涙を流して喜ぶシオンの耳元で小さく呟いた。
“一人占めせずに、見たい奴には貸してあげるんだよ?”と。
俺の言葉に何度も頷くシオンの頭を撫で、白い目で見られ続けていた講堂を出た。
