『おい、お前ッ!名前は!?ちゃんと戻ってくるんだろうな!?』
『シオンよお兄さんッ!シオン・リジイア!待っていて、すぐ帰ってくるからッ!!』
桜の中を駆けて行く彼女は、小一時間かけて裁縫道具を持ってきた。
なかなか見つからなかったと嘯くが、両手一杯抱えられた本に、俺は腹を抱えて笑うしかなかった。
破れた個所を縫い終わった後、シオンと共に施設内に戻ると施設長が血相を変えて俺に駆け寄ってくる。
寄贈式のリハーサルの打ち合わせだったが、会話から俺がストークスの人間という事がシオンに知られた時…彼女は酷く怯えた表情をしていた。
寄贈された本以上に、寄付金の方に目を輝かせた施設長の厭らしい笑みに嫌気が差した。
――寄贈式なんて言うけど…所詮は寄付金だけが目当ての茶番だろ…。
形だけの寄贈式が始まり、シオンの姿を探せば…俺の顔を窺うように見つめていた。
軽く手を上げようとしたら、俺の視線に気づいたらしく俯いて表情を隠してしまう。
確かに彼女はストークスの人間である俺に、幾度か失礼な言動はしたが聡明な少女という好印象しか持てなかったのも事実。
きっと俺と親しく戻って来た所を施設長に見られて居たから、呼び出されて注意でもされたのだろうか。
――一生の間に読める本の数は限られているのに、彼女にこんな茶番を突き合わせて申し訳ない事をしたな。
『――ストークス家御子息…ウィリアム・ストークス様より本が寄贈されました。リジイア児童支援施設は今から56年前に創設され、何代も続き――』
施設長の興奮を抑えた様な声に、生徒の半数は笑いを押し殺しているようだった。
その理由など知ることも無く、声が裏返る事にクスクス笑う生徒は幸せだ。
教師が騒ぐ生徒を指導し始めると、生徒達は自然と口を閉じる。
俺の順番になり、重い腰を上げて壇上に上がりマイクに声を通した。
