『いっ…痛ッてぇええっ!!』


卸し立てのスーツが悲惨な事になっているのは、見るまでも無いだろう。

桜の花びらを全身に浴びるが、何故か悪い気分ではなかった。

腰を下して仰ぎ見た青空が余りにも美しく、桜の絨毯に全身を任せる。

桜と大空のコントラストに惚れ惚れしながら、肺いっぱいに新鮮な空気を取り込んだ。


『ふはははッ愉快だッ!俺は楽しいぞッ!!そーれッごろごろごろごろ~ッハハハッ公務なんてクソったれだ!!』

『…頭の中が春ね』

『――ッだ、誰だ!!』

『有意義な読書の時間を邪魔してくれてありがとう。お詫びにいい事を教えてあげる。お兄さんのお尻も愉快な事になってるみたいよ』


太い幹に凭れかかりながら、少女趣味とは言い難い古ぼけた本に目を通す姿。

青い瞳は俺の姿をチラリと見る事も無く、本から目を離す気は無いらしい。

肩に掛る程の黒檀色の髪に、血を落とした様な唇は白雪姫を彷彿とさせる。

少女に言われた通りに体を捩って、後方の衣服に起きた異常事態を把握した。


『下着を脱いで前後を逆に履くともっと愉快な事になりそうね。春だからきっとみんな分かってくれるわよ。春だから…ね』

『げっ…うわ、マズイ…どうしよう。これじゃあ…ッも、戻れない…ッ!!』

『貴方お役人?今日ストークスの支援が決まったって話だけど…関係者の人みたいね。まぁ…こんな所で遊んでるぐらいなら、戻らなくてもさして問題は無いみたいね』

『俺だって好きでこんな事になってるんじゃない。ソーイングセットを持ってないか?』