――咲き乱れ舞い散るのは、春の匂いを濃く際立たせる桜。
 
何代も続くリジイア児童支援施設がストークスの恩恵に肖る事が出来たのは…支援を要請して丁度15年が経過した頃だった。

データ化が済んだ廃棄処分を待つ蔵書の一部を寄贈した程度。

雀の涙程度しか支給しない事を決定したストークスの寄付金を、歓喜の余り膝が泣きだしていた施設長を思い出すたびに笑えて来る。

民間の施設を視察する事になった俺は、教員たちの愛想笑いを適当にあしらって白々しい空間から抜け出す。


『――手入れは殆どされていないのに…美しく咲くものだな』


首が痛くなるほど顎を上げ、花弁の舞う桜並木の中を一人で歩いていた。

細く頼りない枝を手繰り寄せ、房一杯に咲き誇った花を愛でる。

世界中の賞賛の言葉を贈っても、言い表す事の出来ない幻想的な光景。

踏みつけた花びらには誰も目を止めず、時期が過ぎれば風に流され箒で掃かれる。


「…下らない金の話より…こっちの方がよっぽど趣があるな」


刹那の白昼夢を目の奥に焼き付け、取られる事の無い手を伸ばし宙を掴む。

掴んだ筈の花弁は俺の手の平からすり抜け、誘惑するように風に乗って泳ぐ。

ムキになって花弁を追いかけ、無様に何度も宙を掻きながらその姿を追う。

指先に触れ手の平に握り込もうとしたら、足が縺れて桜色に染まった地面に滑り込む。