独:Der Alte würfelt nicht.

 

「でも…ッその日は来ませんでした。白兎に起こされて目が覚めた時には…部屋中に火が回っていたのです。ローズは…白兎に手を引かれて、走り続けたのです。ジャックはずっと追いかけてきました」

「…ハートのジャックって言うのは、性格が悪い上に極悪非道だな。ジャックが火を放ったのか?」

「そうなのです…ッ!ニコニコ笑いながら、逃げるローズ達を追いかけてきて…ッこ、殺そうと…していました。施設には火が回ってローズたちは…初めて、外の世界に出ました」

「そうか…でも子供二人で生きていける様な世の中でもないだろ…ッ」


俺が塞いだ小さな唇は、どこか宙を眺めて“白兎”の事ばかり口走る。

出会える事を祈るローズの表情は、恋焦がれると言えば説明がつくほど…人間的。

柔らかい髪に触れたのが俺だけではなく、唇に紡がれる“誰か”への優しい響きに嫉妬した。

自分自身のありえない変化に戸惑うが、彼女を思う感情は――間違い無く…ローズが白兎に向けるものと…類似している。


「街を歩くと、裸足のローズ達を皆が見るのです。誰にも見えない様に、暗い方に行きました。ローズと白兎はずっとお腹が空いていていました。『ついて来たら、お腹いっぱい食べさせてあげる』といって近寄って来た人達に…死ぬかと思うぐらいに白兎は蹴られました。ローズは白兎の下で真っ赤な汗が出るのを…見ているしかなかったのです」

「…あの辺りは…治安が悪いからな。ダストチルドレンのテリトリーに入ったのかも…」

「死ぬほど蹴られて、顔を真っ赤に腫らした白兎は…ローズに銀色の包み紙に入った甘いお菓子をくれました。『俺はもう食べたから』って言うのです、でもローズは知っていました。白兎が嘘をついている事を。でもローズは…ひと欠片も白兎に上げずに…食べました。白兎もお腹が空いていたのに…そんな“彼”の“悲願”を…どうしてこうも簡単に諦められますか…?」

「だ、からって…お前が犠牲になる理由には…ならないだろ!?」