「…ウィ…ウィル…ローズは、ここにいるのですッ…ここから離れちゃ駄目なのです。だからウィル…お願いなのです、もうここには来ないでください」
「お、い…何だって言うんだよ!此処から今すぐ離れるんだ!ストークスの人間には俺が何があっても話を通す!!だから…そんなこと…言うなよ」
「ウィル…聞いてください。ローズは…“あなた”に出会えてとても幸せだったのです。だから…最後にウィルにお願いがあります。お願いします、ローズのお話…聞いてください」
「…話の内容でどうするか俺が決める。俺がそのお願いを“聞かなかったら”ローズはここから出ないといけない。本当に叶えたい願いなら、他人に任せるなよ」
俺の首に巻かれた腕を解き、小さな両手で俺の頬を包み込んだ。
血の通った温かな手は、初めて抱きあげた時の凍るような冷たさとは比べ物にならない。
血と泥にまみれた路地裏に倒れていた少女は、もう此処にはいない事を悟る。
自分と彼女が生きて行く道が違っている事を確信しながらも、この温もりを手放せずにいた。
「ローズは…ある施設で生まれました。一面のお花畑。紅茶を飲む3時。幸せだったのです。アリスが居て、白兎がいて、ローズが居て…ハートのジャックも…ずっと、お茶会が続くと思っていました。でも…だめでした。アリスが居なくなって、ハートのジャックもお茶会に出なくなりました」
「…うん」
「ローズは白兎とずっと一緒にお茶会をしていました。きっといつか…皆戻ってきてくれるって信じていたのです。信じて…いたのですよ…ッ!」
「泣かないでくれよ…続きを聞きたいな。それで…?」
まるでローズは…白兎を追いかけて穴に堕ちた“アリス”だ。
“アリス”は好奇心に駆られ兎の穴に落ち、様々な人間と出会い不思議の世界を旅していく。
だがローズと“アリス”の間には交る事の無い一つの境界線が、俺にも見えるほど鮮明に引かれていた。
夢の世界で白うさぎを探す“アリス”と、現実の世界で白兎に置いて行かれた“ローズ”。
