「おい…エリザ、…軍経由の臨床実験者って…」
「言葉通りのこと」
「それは…その…」
「人体実験」
言いたくも聞きたくもなかった事実を、エリザが淡々とした口調で言葉に出した。
未だかつて聞いた事の無いエリザの低い声に、彼女の裏の顔を嫌でも感じさせる。
IDを読み込ませて、何らかの数字を打ち込めば、エレベーターは動きだした。
どの階のボタンも点滅しなく、傍から見れば故障か何かのように見える。
「口を割らせるために薬を使ったり。死刑囚に新薬を投与して人体実験をしたり。そういう場所よ。一般の病院ではしない危ないことを、ね。でもローズちゃんは特別だから、重要施設に収容されているわ」
「ローズが特別?それはどういう事だ」
「言えないわ」
「言えないことだらけだな」
レイ・シャーナスの信頼も厚く、部下にも同僚にも慕われていたエリザは有能な軍人だった。
彼女に心奪われていたのは俺だけではなく、シャーナス将軍との生睦まじい様子は部署全体の噂だった。
彼女にその真偽を問いただしたところ、今まで微動だにしなかった眉が歪み…笑い出してしまった。
その笑顔が、その声が、その唇が…俺の体を揺さぶり、彼女の仕掛けた甘い罠にまんまとハマったのだ。
――…嗚呼、俺は…まだ…君を…ッ。
二度と香る筈の無かった甘いシャンプーの香りに酔う。
甘美な香りの記憶を蘇らせるために、無意識に伸ばした手。
エレベーターが到着した音を立て、触れようとした柔らかな髪がスルリと逃げる。
目の前に広がる異質な光景と、眩しいぐらいの光が俺の眼を襲った。
