「…カノン…くん…」

「んー…?」

「…起、きた…ら…殴ってやる…ッ」

「…痛くしないでね」


頬に柔らかい物が当てられ、痛みの走る腹部が強く押されるのが分かった。

メインルームの扉が乱暴に開かれる音に、やっと軍が到着したのだと安堵する。

私を呼ぶレイの声に、司令官が現場に出てくるなんて、と…声にならない憎まれ口を叩いた。

鉄の匂いが充満しているはずなのに…体が宙に浮かびあがると大好きな香水の香り。


「…イ…レイ…、キャロル…さんをっ…!」

「アリス、喋るな。お前…よくもアリスを傷物にしてくれたな…ッ!!メインルームの監視カメラの映像は投票画面では途切れていたが…軍の方ではまだ撮影され続けていた」

「知ってるよ、それ位。“テロリストを撃とうと思ったら、アリスが急に飛び出してきて”さ。事故だよ、事故。僕もビックリしちゃった。ほら、こうやって止血もしてるしね」

「貴様ッ…!いくらだってアリスから照準を逸らす事が出来た筈なのにしなかっただろう!!」

「僕“素人”だから。銃の扱いなんて分からないし…これもテロリストが使ってた物を拝借しただけなんだ。だから、“仕方ない”よね」


 ――レイは…私のこと心配して…私の事で怒ってくれてる…?


上がらない腕に全神経を集中させ、血まみれの手でレイの頬をなぞる。

温かく、血の通った…大好きな顔。

やっと私を見てくれた紅茶色の瞳にうっとりしながら、夢見心地で瞬きをする。

手首を握って私に何かを訴えているけど、意識が朦朧としていて聞き取れない。