独:Der Alte würfelt nicht.


 ――おやおや、随分と気の短いお嬢さんだ。


「ほう、君にはこの箱庭に閉じ込められたアリスとの通信手段があるとみた。ならば喜んで答えを教えよう。私も今後の為に、被害は最小限にしたいからな。回答は“女の子”だ。医者にも確認済み、画像判別でも例外は無い。カメラでも内部を確認してあるから間違いはないだろう」

『ありがと。お互い良い交渉が出来てよかった。アリスとひと回りほど年が離れてるみたいだけど、子供でも出来たの?貴方とアリスの結婚、心から祝福するね。是非専業主婦業に専念してほしいな』

「未来の奥さまと連絡がつかなくて困っているのだよ。君を脅しているハーグリーヴスの回し物が、私とアリスの恋事を邪魔するのだ。今回の事は黙っていてあげるから、アリスの連絡先と現住所を教えなさい。傷物にされたら迷惑だからな」

『…未来の奥さまから住所も教えてもらえないなんて…かぁわいそぉな人ォ。ハーグリーヴスの回線を使ってるみたいだから、盗聴される可能性もあるけど…それでもいいなら教えたげる、あんまりにも可哀そうだから…』


ぶちまけられたチェス駒を、指を泥まみれにして拾うウィリアムを横目で見る。

ぶつぶつと地面に向かって呪文のように不満を唱え続けるウィリアム。

泥に埋まった騎士を硬い靴底で踏みつけ、奴に見つからないように深く埋めてやる。

軍服の膝を泥で濡らし、ぬかるんだ地面を丁寧に探るウィリアムの姿。

まるで自分の隠した骨の場所が分からず、臭いだけを頼りに宝物を探す犬に見えた。


『――以上がアリスの連絡先。結婚式には呼ばないでね、面倒だから」

「そう言うな嬢さん、ところで一つお願いだ。隣に居るハーグリ―ヴスの庭師の息子に代わってくれ。水面下でばかり動いていてな、中々話が出来ないのだよ。これを機会に友好関係を築きたいんだ」

『え、カノンってハーグリーヴスの嫡男じゃ――…』

「少し前まではな。良いから代わりなさい、聞いて気分のいい会話でもないからな。ではお嬢さん、危ない火遊びも、大概にしておきなさい」


まるでアリスを諭すような口調になっていることに気付き、自らの発言に苦笑した。

数秒会話が途切れ、雑音とともに新しい人間とイヤフォン越しに繋がる。