「…な、なんで、シオンがここに。今日はズル休みでしょう…?それにやっと…テロリストの主犯格の情報を聞き出せそうだったのに!!」

「助けてあげたのに酷い言い草。二人に連絡付かないから心配になって来たのに…まぁ本音は、面白そうな事になってるって聞かされて来ちゃった」

「もう…知らないんだから。はぁ…それ…浴衣…だっけ。季節感ないのね…」

「違う。これは着物。ほら、シオンって漢字で書くと紫苑になるのよ。今は和風テイストがマイブーム。ちょっと息苦しいけど、素敵でしょ」


鮮やかな朱の布地に、白い首元を飾る金の襟元。

白椿、梅、菊、水仙が咲き乱れた瞬間を、丹念な刺繍で描写していた。

帯は真逆の冷やかな深い藍が結われ、春先の空を思わせる。

昔の日本画から抜き出てきたような風貌で、彼女の黒髪が着物に映えて余計際立つ。

彼女自身、冷やかな白椿を思わせる端正な顔立ちだからなおのことだ。


「…すごいアンティークね。でも綺麗だわ。そんな目立つ物来て…よくここまで無事だったわね」

「まぁね。私、この学園にある監視カメラの位置を把握してるの。あと生存反応が半径50m以内に入ると、振動で知らせてくれるから」

「何でそんな物持ち歩いてるのよ…しかも監視カメラいくつあると思うの」

「知ってて損は無いの。カメラの死角をつけるようになれれば、透明人間になったようなものだし。色々と…ね?」

「ルカと一緒に今度は何を企む気?…この前、試験の内容がすり替えられたのって…まさか」

「結局は違う問題になったんだからいいでしょ?あの問題の素敵でキュートでクレイジーさを分からないなんてみんな凡人ね。悪く言ってしまえればナンセンスを理解できない偏屈たちよ」


個室に備え付けてあった端末のコードを抜き、男が目覚めてしまう前に拘束するシオン。

学力査定の試験のデータを、食材の食べ合わせの問題にこの子が変えたなど誰も思わないだろう。

キュウリに蜂蜜をかけると、どんな味になりますか?という下らない物から始まり、メロンと回答したら5番へと進みまた回答をする二択問題。

ちなみに正解は蜂蜜風味のキュウリという、複雑怪奇なものだった。