独:Der Alte würfelt nicht.

 
 
 ――黒く重量感のある鉄の塊が手から滑り、音を立てて床に落ちる。

慌てて拾いあげようとしたら、銃身を直接触った所為で手に焼けるような痛みが走った。

今まで銃を取り扱った事なんてあるわけもなく、今度は慎重に銃把を手の平で包み込んだ。

銃弾が埋まった壁は、コンクリートがめり込んで廊下に破片を散らばらせている。


「これって器物破損よね…。賠償金はどのくらいかしら」


伸びきったテロリストの一人にそう尋ねるが、答えてくれるはずもない。

縄で海老責め縛りをされ、薬を打たれて深い眠りにつく男性。

仲間との連絡に使われていると思われる携帯以外に、役に立ちそうなモノを漁る。

上着の中を漁っていると、破られくしゃくしゃになったメモ紙が、四つ折りにされて胸ポケットの内側に入れられていた。

お世辞にもきれいとは言えない殴り書きの文字を見て、目を細める。


「…誓約書?――私はオリヴァー・レイトンの妹、ライラ・レイトンにかかる治療費及びその他全額を負担します」


誓約書とは名ばかりで、保証人、日時、印鑑など大事なものが抜けていた。

これだけでは効力もないので、下書きにでも使ったのだろう。

桜の花びらがプリントされているメモ用紙は、どちらかと言えば女性向きと言える物。

和紙を使ったものらしく、破られた断面から繊維が飛び出ていた。


「これはいらないかな。捕まった後、軍が調べるだろうし」


テロ活動は、いかなる理由があっても軍の殲滅対象になる。

しかも民間人をこれだけ巻き込んだ物なら、きっと処刑以外は免れない。

伸びているこの男性も、軍の殲滅が完了すれば…その対象になる。

不憫だとは思うが、国の取り決めに従わないと決めたのは彼自身であり、贖罪を受けなければいけない。