――泥のように眠って見る夢は、決まって同じものだ。

肌を焼く熱に急かされて、俺は泣き叫ぶ彼女の手の平を握って走り続けた。

彼女は役にも立たない絵本を大事そうに脇に抱え、木の根に足を取られて転んでしまう。

絵本がどこかに行ってしまったと、火に焼かれる葉をかき分けて探す君。

嗚咽を繰り返す小さな体を乱暴に抱えて、暴れる彼女を無視して走り続けた。


『離して下さい!!駄目なのですあれは大事なものなのです!!お願いします離してくださいなのです!あれは…大事な、大切な…ッ!!嫌ぁあっ!!うわぁああああ!!!』

『静かにしろ!職員に見つかったら…あいつに見つかったら俺達殺されるんだぞ!!この事実をアリスに伝えないと!!犬死なんてごめんだ!!』

『嫌ぁあッ!どうして、アレがないともうお茶会が出来ないのです!!また、また4人で…ッ!どうして、どうしてなのですか!?嫌なのです、こんなのって…あんまりなのですよぉおおッ!!』

『どのみちもう4人でお茶会なんて出来ねぇよ!!住む場所も全部燃えてんだろ!?この森だってもう燃え移ってる!!今ここで捕まったらもう二度とお茶会なんて出来なくなるんだ!!それでいいのかよ!?』


あまりに暴れるので、俺も木の根に足を取られて転倒してしまう。

その拍子で抱えていた彼女が俺の腕から離れ、同じく体を地面に横たえていた。

足に鈍い痛みが走り、服の上からでも血が出ている事が分かる。

立ち上がれない俺を支え、顔をぐちゃぐちゃに濡らして絵本を諦めた彼女は、後ろ髪を引かれながらもゆっくりと歩き出す。


『ううっ…行くのです!早く行かないと…早く、うッふえっぇえッ!!』

『行こう…ッ怪我はないか!?まだ走れるか!?』

『走れます、走らなければいけないのですッ…!そしてまた、どこか別の場所でもいいから…一緒にお茶会をするのです!だから走るのです…!』

『ああ、そうだ。走るんだよ、俺達は外の世界に行くんだ!誰の監視もない、自由な世界へ!!』


手を伸ばした先には眩い自由な未来があると信じていた俺達。

しかしそれは――世界を知らない子供の幼稚な幻想でしかなかった事を、数日間で嫌と言うほど思い知らされた。