「――おい、俺は聞いてないぞ。学園を占拠して人を殺すなんて…。話が違う、俺は…あいつを探してるだけだ。聞いてるのか!?」

「うっせぇなぁ…静かにしてろよ、うさぎちゃん。取敢えず1時間は誰にも危害は加えねぇよ。そういう取り決めだからな。まぁ姫ィさんの気が変わらなければの話だが」

「うさぎっていうな!俺はノエル・ラヴィンソンだ!あいつに…会わせてくれるって話で手を貸したってのに…!くそ、この縄を解け!!はーなーせーッ!!」

「そんな命令受けてねぇから。だるいなぁ…何でこんなクソ餓鬼のお守りなんか…」


白いリボンを包帯代わりに巻き付けていた右目が酷く痛み、湿気を帯びて膿んでいる。

炎症を起こしている所為か、その熱が伝わって眩暈がするほどの頭痛に襲われた。

目の前が霞み、外傷の無い左目さえ、視力を失ってしまったのではないのかという恐怖感がよぎる。

学園の理事長室と呼ばれる場所で、椅子の背もたれの裏側に両腕を固定されていた。


 ――早く…あいつに会わないと。俺たちは殺されてしまう!


「クソッ…こんな所でもたもたしてる暇なんてねぇのに…!」

「お前も大変だなぁ…うちの姫ィさんに気に入られたのが運の尽きだ。どうせ会わせてなんてもらえねぇよ。同情するぜ、うさぎちゃん?」

「お前だってなぁ…これが終わった後に殺されるんだろ…!?よくそんな顔して笑ってられるよなぁ!!

「俺の命一つで姫ィさんの恩恵に肖る事が出来るなら…安いもんだ。あんたも同じだろ?マークの力を借りようと思えば、それなりの代価が必要になる」


ソファーに腰掛けながら煙を部屋中に燻らせる男は、楽天的に笑い声を上げる。

不愉快な匂いに何度か咳き込むと、「お子様だな」と馬鹿にしたように笑われた。

入って来た時には賑やかだった校舎も、今ではシンと静まり返っている。

黒い塊を手の中で弄る男を、熱に浮かされて朦朧とした頭でボンヤリと見つめた。