「――私がパンドラのシステムに入り込む方法さえ考え付けば…レイの役に立てるのに」


でも、覚えているのなんてほんの一部。

未だに自分の記憶が隠ぺいされ、過去に黒羊として生きていた事も信じられない。

カノン君の事は辛うじて思い出す事が出来たけれど…レイに見せられた資料の子供たちの事なんて…見た事もない気がする。

情けなくて、涙が出そうになるのを鼻をすすってこらえた。


 ――レイに…会いたいなぁ…。


貴方を危険に晒さない為に傍から離れたのに、私の心は貴方から離れそうにない。

彼の事を一度でも疑ってしまった私は、きっと今度は今まで以上にレイの存在を拒絶するだろう。

頭の中を割って、その中身の全てを私にさらけ出さない限り…この疑念は呪いのように付きまとう。

カノン君は、絶妙なタイミングで私達の足元の地雷の存在に気付かせた。


 ――そもそも…カノン君が私に協力を求めてくる理由って何よ…色々知ってるくせに教えないし…意味分からない。


私にレイへの疑念を持たせるのが本来の目的らしいが、それだけの為にハーグリーヴスの人間が出てくるだろうか。

取敢えず、レイの目的とカノン君の思惑は対象の場所にあることまでは理解した。

色々考えようとすると、頭がボーとして回らなくなってくる。


「暑…っ空調設備ぶっ壊れてるんじゃないの…?」


――システムが正しく設定されていないのだろうか、何だかいつも以上に暑く感じる。

その上、先ほどから襲ってくる睡魔に勝てず、そっと瞼を閉じた。

今まで感じた事のない感覚に…“何かがおかしい”と本能が訴えかける。

そんな意識内での抵抗は無駄に終わり、出来ればレイの夢を見たいなんて考えながら…意識を手放した。