「あ、こらッ!出るんじゃない!」

「う、ううえッふわああっぁあッ!!嫌ぁああッ!!」

「おい、そっちに行くな!!」

「う…っううっ…ううーっ…」


バスルームからそそくさと逃げ出し、品の無いバタバタという足音を立てて俺の前から姿を消す。

俺の部屋がッ!俺のリビングが!!濡れてしまうじゃないかッ!!!

その思いを胸に少女の後を追いかけるべく、バスルームを勢いよく出た。

建てた俺ですら、無駄に広いと感じる部屋には少女の通った後に水溜りが出来ている。

それを辿っていけば、ソファーの裏側でカタカタと震え、泣き声を押し殺している姿があった。


 ――少し、大人気なかったか…。


病院から帰ったものの、少女の髪に泥は付いてるわ、服は汚れているわ。

起きた時に風呂に入るようにいったが、水を適当に浴びるだけで汚れなどちっとも落とす気が無いようで。

それ以上に驚いたのが、服のまま入ったらしく折角乾いた服を無残な状態にした事だ。

意識の錯乱があるのかは分からないが、どちらかと言えば生活をするにあたっての常識が欠乏しているようにさえ思えた。


「…悪かったよ、乱暴にして。早く乾かさないと風邪を引くから、出てきてくれないか?」

「…う…ううっ…もう、何もしないのですか?ローズは、ローズは…もう色々いっぱいいっぱいなのですっ…水は嫌いなのです、お顔が濡れると怖いのですよぉ…」

「しないよ。おいで、髪を拭いてやる」

「痛いのは嫌なのですっ痛いのは嫌いなのですッ…!ふえっ…うううっううーッ!」


出せるだけの優しい声を、少女に掛ければ、窺うような視線で俺を見つめる。

頭を撫でて落ち着かせようとするが、手を伸ばした瞬間に身構えられる。

危険を感じた小動物のように体を震わせて、俺の手の平にさえビクついた。

差し出した手をおずおずと引き、せめて距離だけでも縮めようと少女に少し近づく。