この国にはハーグリーヴス家、ストークス家、ブランシュ家、シャーナス家という四大名家が存在する。

俺もその内のストークス家の一人だが、実際の跡継ぎは兄さん達の誰かだ。

身内の跡継ぎ争いから離脱した俺にとって、それらの事は下らなく滑稽なものとさえ思えた。

だから先ほど、シャーナス将軍の気に障るような言い方をしてしまったのだが…。

あそこまで真剣に考えているあたり、さすが次期シャーナス家当主と言うべきだろう。


 ――あんたはいいよな。期待もされて、実力も認められてるし。


俺の人生なんて、兄さん達からあぶれた子と結婚して、適当に子供作って。

ある程度の年齢になったら兄さん達の補佐に回る。

兄さんが死んで幹部の穴があけばそこを埋めて、また自分の代わりに誰かが座る。

それが俺の将来、紙に書くと数行で終わる下らない人生。


「…んぅ…ふぅ…ゅ…ううぅ…」

「――でも、お前にとっては…俺の人生の方が何倍もマシなんだろうな…」


ライトに当たって蜂蜜色に輝く色素の薄い髪を掬い上げ、聞いてもいないのに呟く。

その時、毛布をつかんでいた指先に力が込められたのに気付いた。

睫毛を震わせて、宙を泳ぎ始めた手の平を掴み、顔を覗き込む。

ゆっくりと瞼が開き、ブルーサファイアの瞳が今度は太陽ではなく俺を捉えた。


「…あ、えーっと…おはよう?」

「…んぅ…う…んン…」


動揺する俺を尻目に、少女は澄んだ瞳で俺と視線を交わらせ、柔らかく微笑んだ。

誰にも恥じらう事もなく大きく欠伸をして、猫のように体を丸めて再び眠りについた。

可愛らしい寝息を立てて毛布に潜る少女に苦笑いしつつも、引っ張ったせいで出てしまった小さなつま先をなおしてやる。

そんな些細な事でさえ、俺の人生をガラリと変える事を暗示させるものに思えてならなかった。