――人間ッ!?


反対車線側の路地で、コンクリートの壁にもたれかかる様に倒れている少女。

あまりに異様な光景に、握りしめていた傘を放り投げてガードレールを飛び越えた。

着地をする際に水たまりに勢いよく突っ込み、服に泥が跳ねる。

車にクラクションを鳴らされながらも、そんなこと気にする余裕すらなかった。


「お、おいッ大丈夫か?どうしたんだ…ッ!?何があったんだ!?」

「…う、…あ…ッ…」

「しっかりしろ。今、救急車を呼んでやるから…ッ!」

「…ふ、ふぇ…ッうぅ…ううっ…」」


ウェーブのかかった色素の薄い髪を水溜りに散らして、顔を泥で汚しながら涙を流していた。

それは涙ではなく、髪から流れ落ちる滴だったのかもれないが、俺には涙に見えた。

古風の舞台衣装の様な少女らしい赤のエプロンドレスは、鼠に噛まれたような穴がたくさんあいていた。

煤けた裾のフリルを水溜りにつけて、細く頼りない腕で自分自身を抱きしめるように震えている。


「…ない…ぅうッどこ…?うっううぅッうわぁあああッー!!」

「落ち付けって。ほら――ったく、何で女の子がこんな場所に…ッ泣くな、何があったんだ?大丈夫だから、話してみろよ…!!」

「うう…へうっ…!…ぎが、うさぎが…ッうさぎが、どこ、居ないのですッ!…う、あぁあっううッうああっああっー!!」

「うさぎ?ぬいぐるみでも無くしたのか?一緒に探してやるから泣くなよ…どんなうさぎだったんだ?おい、泣きやめって…ッ!!」


少女は泣き声に混じって嗚咽を繰り返し、両手をブンブンと振り回す。

さっきまでうるさいとすら思っていた雨の音をかき消す、耳の奥まで響く甲高い声。

泥水に横たえられた体を抱き上げ、泣きじゃくって息を吸うのも苦しそうな少女の背中を擦る。

背中が痙攣するようにヒクつき、それを抑え込むように強く抱きよせた。