――雨の音に急かされるように帰り道を足早に進む。

しっとりと水分を含む自分の黒髪に、傘を持つ手は色を無くして死人のようだ。

傘の意味など無くなりつつあるが、閉じる気力すらも無い。


「――ったく、ここまで降るなんて聞いてないぞ!?」


どしゃぶりの大通りを、いつも通りの道をなぞる様に帰っている俺。

生憎の雨で革の靴は泣き出したように、隙間から雨水を出している。

今更ながら車で帰ればよかったと後悔しながらも、雨の中を縫うように進んだ。

しかし本日2回目の不幸が俺を襲う。


キキキ――ッ!!


けたたましいアクセルの音に加えて、全身に感じる水の衝撃。

無残にも骨の折れた傘が、指からするりと落ち、やっと正気に戻る。


「クッソ!待ちやがれッ!」


そんな声はむなしく、未だに土砂降りの雨の音にかき消された。

車はこの豪雨の中スピードを落とすことも無く、俺の前を走り去っていく。

悪態をつきながらぬれた前髪をかきあげ、ポケットに入っている携帯の安否を確かめる。


「…最低だ…買い換えたばかりだってのに…」


水を含んだ前髪をガリガリ掻き、壊れた携帯をポケットに捻り込んだ。

水を吸ったコートは重たく、脱ぎ捨ててしまいたいという衝動に駆られながら必死で抑える。

傘を拾い上げる際にチラリと何かが目に止まり、その異様さから足を止めてしまった。

金髪のアンティーク人形。

随分と大型で、まるで本当の人間がその場に蹲っている様にさえ見える。

よく出来ている、と感心しながら目を潜めれば、…すぐに違和感に気づいた。