「レイ・シャーナスは過去に起こした過ちの贖罪の為。それに報いる為に、ハーグリーヴスの管理下に置かれている。序列第4位も剥奪される所だったけど、期間内にプロジェクトを成功させると誓いを立てたから…必死で這いずり回ってるんだ」

「レイが何をしたっていうのよッ!そんな、…レイが死ぬような思いをしてまで成し遂げなければいけないほど悪い事をしたの!?何を…ッ」

「それはまだ教えてあーげない。デザートは最後に取っておくものだろ?欲しがってる時にはあげたくないんだよね」

「そんなのって…!お願い教えてよ…レイは何をしたの!?」


自分の腕の袖が濡れていることに気づいた。

ポツポツと雫が落ちて、吸い込まれていく光景に、まるで私が真実を知るたびに、何かに引き込まれていくような錯覚さえ覚える。

カノンの指先が私の顎を撫で、頬を伝う涙を親指で何度も何度もぬぐう。


「いいね、その顔。その顔が見たくて話したんだ。一度疑って、探ってしまえば…もう二度と信じられない。利用されても、使い捨てにされても平気だって言ってたよね?ほら言えるだろ?レイ、大好きって。ほら、ほらほらほら、はは、言えないかァ。だよね、それでこそ僕のアリスだ」

「い、言えるわッレイの事を信じてるもの!レ、レイは私を利用しても、私は…レイの為にッ!レイの為なら、何だって…何だって…う、ううっ…ぁあ…ッ」

「自己犠牲なんて似合わないよ、君には。だってあの時、“彼女”にあんな事をしたんだから。安心したよ、“中身”の方はあの頃とちっとも変って無い。嬉しいよ、アリス。君も僕に協力的で、心強いなぁ…」

「…ッ信じてるわッ私は、わ、たしは…レイを信じてる。信じてるの。貴方に否定されても…私はレイを…裏切れない…ッ」

「うん。それでいいんだよ君は。でも…今日の内に荷物をまとめて僕の所に来ないと、大好きなレイは死んじゃうなァ。もしも、僕と来るなら…ココ、ね?」


自分の唇を人差し指で何度か叩き、いつもと変わらず私を抱きしめる。

心を締めていた大半の部分を、鋭い刃物でギタギタに引き裂かれたような気分だった。

罪悪感と虚しくなるほどの後悔の念で、ヒクつく喉から声も出なかった。

そして私は、彼との身長差を埋めるように踵を上げて、背伸びをした。