あの施設に居た当時の状態が“黒羊”と呼ばれ隔離される要因ならば。

私を管理するパンドラの大規模記憶媒体の一部は、私が外部に出た時点で、遠隔操作に切り替わっているのかもしれない。

それ以外の黒羊は…“施設から離れる準備”が出来ていない状態で施設が炎上した。

施設のシステムからパンドラのシステムへとデータ転送を行っていたため、パンドラの方のバックアップは辛うじて残ったらしい。

しかし復旧しようにもパンドラのシステムにロックが掛っていているから――!


「…君はレイ・シャーナスにとって大事な存在だ。だって君がいないと“黒羊のプロジェクトを任せられたレイ・シャーナスの立場が危うくなる”から。君はパンドラのシステムにアクセスして、黒羊を管理していたシステムを復旧しないといけない。それが“序列第4位に収まるシャーナス家の本来の存在価値”だから」

「分からないわ!私は黒羊だった!でも記憶は消されているのに、パンドラのシステムにアクセスしろ!?ロックを解除する方法なんてわからない!!昔の黒羊の頃だったら…常人じゃない知識を持っていたかもしれないけど…今は…本当に、そんな方法思いつかなくて…」

「“今の君”はレイ・シャーナスにとって必要ない。しかし、抑制する前の君なら可能だ。だから危険を冒してまで、君の精神世界に足を運んでいる。パンドラの一部を間借りしている君の精神は…気が触れるほどに複雑怪奇なもの。前回みたいに君が拒絶して遮断してしまえば…どうなるか分かるよね?」

「…どうして、そこまで。レイは権力や富に縋るような人間じゃないッ!なのに…何故…そんな危険を冒してまで…プロジェクトを復旧しようとするの…ッ」


レイが黒羊のプロジェクトを率先していたという事は、その施設を提供したのは自分だというのは嘘?

どうして私に本当の事を言ってくれないの、嗚呼、駄目だわ、言うわけない。

言ってしまったらきっと、私が雲隠れでもして二度と目の前に現れないとでも思っているんだ。

遠回しに協力を依頼してきたのも、私の研究してきた知識が必要だと言ったのも…。

脱線して起き上がる事の出来ないプロジェクトを、どうにか引き上げる為なの?