先生に会いたい。


でも、何がしたいわけでもなく、


ただ、ただ、
会いたかった。




学校に着き、
音楽室のある東棟に入ると、もう先生のドラムが聞こえる。



あたしは、
ドア越しにしばらくドラムを聞いてから
一呼吸つき、

「先生…っ」


そう思いきり、叫び、
ドアを開けた。



ドラムが止まった。





ドラムセットの前にいるのは先生ではなくて、
もっと若い男の子。


しかも、県立の隣の高校の制服を着ている。


「何先生に用?」
彼はそう言った。

「え…っと。近江先生に…」
「あ、父さん?ちょっと、待って。」

彼はケータイをとりだし、誰かに電話をかけて音楽室に呼び出した。


「あの…、父さんって?」

「ここの学校の国語の近江はオレの父さんだよ。」
「え…」



先生に息子…

確かに
先生にあたしと同じくらいの息子がいてもおかしくないけど…


私生活がベールに包まれてた先生だけにあたしはこの息子の存在がショックだった。




「…何チャン?」
「え?」
「何年生?」
「…2年」
「オレと一緒だね。…オレは弥。近江 弥。よろしくね。」



あたしの気分をよそにこのわたるくんは
あたしをナンパしてる…


悪気はないんだろうなぁ。



でも


「ねぇ。あたし今、どん底にいるの。
朝、両親が離婚するって聞かされて、
帰ったら、母が手首切って自殺未遂。」


さすがに、
わたるもびっくりしたみたいだ。

「それは、それは…。
それは、…オレも経験したよ。全く同じパターン。」
「え?」
「2年前、うちの両親が離婚した。同じだよ。…自殺は双子の妹がした。」



「…あたしと同じだね。」




わたるは
よく見るとハンサムだった。
背もものすごく高い。
190近くあるんじゃないだろうか。


先生の息子だと思って見ると、
たしかに少し雰囲気が似ている。




「で?何チャン?」
「…あおい。」
「あおいちゃんねー。」



わたるは
あたしの全身を舐めるように見た。