幸、母は軽傷だった。

薬で眠る母を病室にあたしたちは外の空気を吸いに行くことにした。


中庭のベンチにすわりあたしたちは入院患者たちをみながらあたしは言う。

「パパ。ママは弱ってるよ。
離婚、考え直せないの?」
「あおい…。あおいには悪いけど、無理だよ。ママとはもう5年も」

「でも…。
前は一緒に住んでいたのに…。



あたしは
また感情が高ぶり、涙が出て来た。

この感じ…

先生。

近江先生に似てる…


なんで
あのとき、近江先生に涙を見せてしまったかわかった。



先生は

父に似てる。


「あおい。
いつか、あおいにも好きな人ができたらわかるよ。すまない。
パパは、ママより、好きな人ができたんだ。」




好きな人ができたら?



「パパ…わかるかも」


あたし、先生が…



近江先生が好き。




「わかったよ。パパ。
でも、あたしのことも忘れないでね。」



「あたりまえだよ。困ったことがあったら、すぐにこうやって電話をくれよ。」



あたしは
母の顔を見てられなかった。
だって、
母の唯一の味方だったあたしまで父に説得されてしまったから。


どうしても
気持ちがわかるの。

「もう一回、ママと話してみるよ。理解してもらわないと…。」
「うん…。じゃあ、あたし帰るね。」



あたしの足は
家には向いていなかった。


近江先生に会いたい。

あたしは、学校に向かった。
時計は午後6時を回っていた。
先生はきっと、
音楽室でドラムを叩いているはず。