「失礼します」

担任はおもむろにあたしに椅子をすすめた。

怒られるんじゃないんだ、と
あたしは少し安心した。


「お父さんから電話があったよ」

以外な先生の言葉にあたしは何もいえず、

どうして…



ただ、答のでないその問いを頭の中で繰り返していた。



「すごく心配していたよ。離婚するんだってな。お父さんとお母さん。」
「…はい」
「苗字変わるんだってな。学校では卒業まで田口で通していいからな。」
「…はい」

担任がすごく心配してくれてるのが伝わった。
でも
あたしはその場で先生にお礼も言えないくらい弱ってた。
父は、
あたしのことなんてどうでもいいと思ってたけど…
そうじゃなかった。

逆に母は
そういう電話も入れてくれてるわけではない。

今日のあさも
母は、寝室にこもったきり出てこなかった。
あたしに学校を休むようにドア越しに言ってきたけど

それだけだった。


父の
優しさが伝わる。


父が引き起こしたこと。


でも、
それは不可抗力であって

父は父なりのあたしへの気遣いをしてくれた。


でも…


あたしは
また家族三人で暮らせる日がくればいいなぁって思ってたんだよ。



さよなら。
パパ。



幸せになって…



あたしは担任に言った。
「あたしは平気。
両親はもうずっと前から別居していましたから。
離婚っていっても、それは紙切れの上だけのこと。あたしはとっくに乗り越えなきゃいこないことは乗り越えてきました。」


「そうか。そうだったのか。」


強いあたしの口調に担任だけでなく
他の教師たちもおどろいていた。


始業5分前のチャイムがなり、教師たちが次々と準備室を出て行った。


担任もあたしに教室に戻るように促してから出て行った。


あたしも立ち上がり、出ていこうとした、


そのときだった。



先生…

あなたと、


初めて言葉を交わした。