「…急に黙って、どうしたお嬢ちゃん」




何も言葉を出さなくなった私を不思議に思ったのか濡れた瞳を、後ろにひっついている私に向けた。







「何にもないよ」





「……」




疑いの目を向けてくる。


じーっと、初めて会ったときと同じように…。









ちょいちょい見ないでよ〜。







こういう目さ、苦手なんだよね。全て見透かされてるようで。








ほんと、不思議な男だよね。











見られたくなくて視線をそらすと、綺麗な桜の木々が視界に入った。










キレイだなあ








淡いピンクが周りを優しく包んでいる。








男からの視線を無視して、桜の木を眺めた。












……もう始まりの春だ












――――――あと1年。









もう一回桜の季節が来たら私はもうこんな綺麗な桜を見ることがないだろう。








ふとそう思いながら、男の服を掴んでいる手に力が入った。





大丈夫



自分が決めたんだ







しかし、私の人生の歯車は今から少しずつずれようとしていた―――。