「ありがとう、時初。そろそろ行きましょう。日が暮れてしまう前に」
私は自分の馬の背を撫で、時初に笑いかける。
「そうだな、お前の帰りを今かと待ってる奴等がいるからな」
私の帰りを待ってる奴等って…
すぐに思い浮かんだのは屋敷の皆の顔だった。
この平安の時代で、天姫は神より使わされた都の守り神とさえ謳われた。
天宮の一族は神の血をひく一族であり、故に政(まつりごと)にも干渉する権利が与えられている。
そんな一族に使える家臣達の顔が浮かんだのだ。
私を神としてでなく、人として大切にしてくれた彼等を、私は大切に思う。
その大切な人の一人が護衛の時初だ。
「そうね、皆が心配してる」
今日だって私が草原で馬を目一杯走らせてやりたいなんてお願いをしたら承諾までに随分と渋られたんだもの。
相当心配だったのね…。
私は天姫で、鬼にも人にも狙われる特別な存在だから…
「あぁ、俺と二人ってのが心配なんだろうな」
「…?一体何の話?」
「こっちの話だ」
「???」
何気ない話をしながら帰路を行く。
夕日が顔を出す頃、私達は屋敷へと帰ってきたのだった。


