あれから数週間。
火鬼の封印は脆いものの、平穏が続いていた。


千年のマンションのベランダから風を感じる。


ここから見る鬼葬島の町並みは、すごく綺麗だ。


綺麗だけど………


「まさか、鬼が一体も現れないなんて…」


前までは、鬼が現れない夜なんて一夜もなかったのに…


嵐の前の静けさ…ともいうのだろうか。


『美琴…』


あぁ…天鬼…
心配かけた?


『…不安そうだな』


そりゃそうでしょ。
本来望むはずのこの平穏こそが恐ろしくて仕方ない。

『だが…お前には千年がいる。今まだかつて、天姫と誰かが共に戦った歴史は無い。現時代の天姫であるお前は一人ではない』


…ん。
そうだね、あたしは一人じゃない。


「でも……。時々不安になる」


この戦いで、生き残った天姫は一人もいない。


故に激しい戦いになる。
戦い慣れをしているあたしに比べて、千年には実戦経験がない。


「生きていられる保障なんて…あたしにも、千年にもないんだ…」


もし千年が死んだら?
そう考えるだけで胸が痛む。


呼吸さえ出来なくなるくらいに苦しくなる。


それは、千年も同じだと思うから…