「和っ!!
もう…大分ストック尽きたんだけど…」


とか、ゆづが可愛い泣き言を言ってきた頃、会場の準備は終わった。

2時間はかかったかな。


「お疲れ様。
ゆづ。」


彼女の唇に、そっとキスを落とす。

不満そうな顔をしている彼女を横目に、アルプスさんが言った。


「コンサートのスタートは17時30分だからね。
ちゃんと…準備しておくこと。
日本からのお客さんも…普通に来るから。」


「うん。分かってる。
分かってないの…多分僕の隣にいる彼女だけだよ。」

相変わらずだな…と、半ば呆れたように笑うアルプスさん。


「行こ?
悠月。
部屋戻ろうよ。
戻らないなら…してあげないよ?
お望みのコト。」


「べ…別に…望んでないしっ!!」


そう言いながらも、ゆっくりゆっくり、階段を昇りながら僕の後を付いてくる。
部屋に戻ると、悠月がそっと、ベッドに腰掛ける。


「ね?和…
何か…なんかね。絶対…このお腹の中にいる子…
音楽好きになるなぁって…思うんだ。」


当然でしょ?
僕とゆづの遺伝子受け継いでるんだし。
絶対音感を持つ僕とゆづの子だよ?
そうならないワケがない。

「あのね。
ピアノを弾いてるときは…ずーっと静かなの。
普段…お腹蹴ってきたり…動いたり…すごいんだけどね。」


そっか…
やっぱ、母親である悠月にしか分からないことはあるんだな…


「絶対…そうなるよ。
僕とゆづの子だもんね?」

ゆづが抱き付いてきたところで…軽く引き寄せてキスをする。

もちろん、さっきより長いの。

これでもう…わがまま言えないでしょ?


「ゆづ?
これでも…何か不満?」


「大丈夫っ。
ちゃーんとね、伝わったから。
和の愛。
きっと…お腹の赤ちゃんにもね?」


んな…可愛いこと言うなよ…

止まんなくなるだろ?


こんな…ゆづ1人じゃなくて…会場中の、いや…世界中の人に…伝えなくてはならない。

僕の決意を。

少し…不安はある。

だけどね?
大丈夫な気がするんだ。

僕にはお腹の赤ちゃんも、悠月もいるから。

3人一緒だから。