「病院…遠いなっ…」


1時間半かかって、ようやく奈留のいる病院に到着。
しかも…入り口で金属探知機による検査まで受けさせられる。


俺たち…ただの面会者なんだけどな…


「仕方ないわよ。
テロ防止のためじゃないかしら。
面会者を装って侵入されても困るし。

……まあ、矢吹はいつでも怪しいけど。」


「…彩お嬢様っ…///
そのような物言いは…あんまりでございます…」


「ふふっ。
ホント、冗談の通じない執事なんだから。
冗談に決まってるでしょう?」


「それは…大変失礼致しましたっ…
さあ、奈留様のいらっしゃる病室へと参りましょう。」


この病院の地図が全て頭の中にインプットされているかのように、迷いなく歩いて行く、オーナーの執事さん。


「あの…矢吹?
何で貴方が、病室の場所まで分かるの?」


「宝月家のサーバーから侵入致しました。
近くの監視カメラ及び通信システムを乗っ取れば情報の入手はたやすいと思ったもので…これ以上は企業秘密でございます。」


「さすが、私の執事ね。
なかなかやるじゃない。」

オーナーがどこか楽しそうに笑った。


すごいな…宝月家…

唖然とする俺の前に、半開きになったドアが。


無言で一礼してから、入るように合図する執事さんの様子を見て、
ここが奈留のいる病室なんだと判断した。


「もう…心配かけて…
これじゃ、何のためにTV電話してるのか、分からないじゃない。
院長から聞いて、慌てて飛んできたよ。」


「雅志っ…!!」


そう言うなり、俺に抱きついてきた奈留。


「妊娠…してるって…ホントなの?」


「うん…
でも…でも…ねっ…
いなくなっちゃったよっ…私と…雅志の赤ちゃんっ…会わせて…あげたかったのにっ…」


必死に涙を堪えている彼女。
見ていられなくて、しばらく俺の腕の中で泣かせてやった。

流産……か。

ツラいよな。

ホントは…産んでやりたかったんだろ?

そんな言い方だった。