その約束…忘れてないよな…?

奈留…


俺…奈留に何て言えばいいんだよ…


……。


俺が何か言って、変わるワケでもないかもだけど…

言ってみよう。


「俺の病院のことも…
動物病院の院長のことも…
気にしないでいいから。


俺が出来ることなら何でもするからさ…


無責任かもしれないけど…

子供…産んでほしいんだ。」


って。


だけど…

無常にも…

俺が病院に行ったときには、言えなくなってたんだ。
こんな言葉さえも。


オーナーの携帯が鳴る。


「あ…本当!?
分かったわ。」


運転席の執事に、スピードを上げるよう命令してから、
俺の目を真っ直ぐ見据えて言った。


「喜んでいいわ。
奈留ちゃん、麻酔から覚めたみたい。」


奈留、が…?

やった!!

喜んでいい、はずなのに…

日本の秋より寒いヨーロッパの夜の風が吹き込んできた。


「寒っ…」


すでに日付は変わっているらしい。

コートの襟を立てても、体感温度は変わらなかった。