あ…あれ…?

そこにいたのは、私のお母さんだった。


何で…ここにいるの?


「な…奈留…?
あ…あなた…まさか…妊娠してること…気付いてなかったの…?」


え…


まさか…

妊娠…してたなんて…


「とにかく。
検査に回して!!
緊急よ!?」


すぐに、エコー検査が行われた。


「…奈留。
あなた…本当に気付かなかったみたいね。
まあ…人によっては、全く悪阻の症状もないから、分からないんだけどね。」


そう言いながら、お母さんは下の方にカーテンの付いた診察台に私を乗せて、脚の中心の部分に冷たい器具を挿入してきた。


「痛いっ…」


痛みをなんとか堪えて、首をゆっくりひねって、モニターを見ると、小さい影が映った。
動いてはいる…が、その動きが、たまにしか見られない。


朱音さん…いや、母親の顔が、一瞬にして青くなったのが分かった。

私も、額にイヤな汗が伝う。


「奈留…まずいわ。
激しいお腹の痛みとか…あった?」


「激しい痛みは殴られた直後に。
だけど、数日前から下腹部の痛みはあった。」


「出血を伴う激しいお腹の痛みがあったら、すぐにナースコール押すのよ?」


それだけ言って、お母さんは部屋を出ていった。


妊娠…してるなんて。

思いもしなかった。

だけど、雅志には、言わないつもりでいたから…

何とかなるかな。

だけど、もしかしたらオーナーが伝えちゃうかな…

そんな考えが頭をよぎった、そのとき。

いつになく激しいお腹の痛みが襲ってきた。


「あ…かねさっ…おなかっ…痛いっ…おかあさっ…」

そう、ナースコールを押して言う間にも、床を赤い滴が染めていく。


「早く麻酔用意して!!
緊急手術よ!!」


お母さんの切羽詰まった声だけが、耳に響いた記憶しかないまま、意識が途切れた。