「唯ちゃん、お疲れ様。
すごくすごく、上手だったよ。」


「ありがとう。」


小学校2年生とは思えないしっかりした滑舌でお礼を言う唯ちゃん。

子供って可愛いな、やっぱり。


「私、バイオリンは弾けないからよく分からないけど、音色が凄く澄んでいたよ。
唯ちゃんの心の中みたいに。」


私は、率直な感想を唯ちゃんに伝えた。


「そんなそんな。
唯ちゃんにはもったいない言葉よね?」


そんな、さっきの唯ちゃんのバイオリンの音色に負けないくらいの澄んだ声が聞こえた。


地声でソプラノのレの音域までを余裕で出せそうだ、と錯覚するほどの。


黒のレースアップワンピがよく似合っているその女性。
唯ちゃんが先生と言っている辺り、
唯ちゃんのバイオリンの先生なのだろうか。

名前は、中村 麻美(ナカムラ アサミ)さんというらしい。


その人は、和之に声をかけていた。


「あら?
和之くん、久しぶりね。」

え…

この人…誰なの…?


まさかまさか…和の元カノとかじゃないよね…


「初めまして。」


そう言って差し出された手を払いのけて、走ってホールを出た。


「悠月!?」


和の声が、すごく遠くに聞こえた。