「ふふ。
ありがとう。
…んじゃ、また、ウィーンで。」


僕がアルプスさんからの電話を切った直後、ひょこりと洗面所から顔を覗かせた悠月。


「どうした?
も、下行くよ?」


「うん。」


僕がそう言うと、笑顔を見せて背中にいそいそと付いてくる。


だけど。


「和っ…
歩くの…速いっ…」


ヤバ…


僕、歩くの速かった?

普通に歩いていたつもりだったんだけど…


「ごめんね?
ゆづ。
ちゃんと悠月に合わせるからさ。」


「ありがとう。」


そう言って…僕に再び笑顔を見せる。


だから…気付かなかった。

悠月が時折、ダルそうに顔をしかめることも、
身体を無理矢理引きずるようにして歩いていたことも。

何で僕は、気付いてあげられなかったんだろう。


気付いていたならば…

君は…


いろいろなことに悩まずに済んだのかな?

君をあんな目に遭わさずに、済んだのかな―?


三ノ宮和之side〈終〉

NEXT…〈三ノ宮 悠月side〉