今は…まだ6時か…

暇だ。


「何で仕事行く準備してるの?
今日、有給休暇って言ってなかった?」


「うん…だけど…行かなきゃ。
谷村さんに会いに。」


「行くんだ?
じゃあ、家連れてきてよっ…!
谷村さんのためだよ?」


「分かった。
じゃ、連れてくるから。」


そんな会話をしている間にも、朝食の準備は既に進んでいて。


美味しそうなスクランブルエッグとサラダにコーヒーが。


「和もいっつもご飯じゃ飽きちゃうでしょ?」


瞬時に僕の気持ちをくみ取ってくれる和が好き。


朝食を食べ終えて仕事場に行くと、谷村さんがアフレコをしている真っ最中だった。


「ああ、谷村さん。
ごめんなさい、仕事中に…」


「なかなか上手くできないから、練習してるんですよ。
本番のアフレコは明日なんですけど…」


結構な努力家だな…


「あの…良かったら練習終えた後、来ませんか?僕の家。
悠月…じゃない、家内も会いたがってるんです、谷村さんに。」


「じゃあ…お邪魔させていただきますね?」


「終わるまで、適当に時間潰していていいですよ?」

そう言われた僕は、ふらっと楽器屋さんに立ち寄ってみた。


ピアノを触ってみる。

音がおかしい気がしたんだけど…気のせいかな?

何度も弾いていると、店員さんがやってきて、調律師さんに電話していた。


「あ…あの…三ノ宮 和之さんですよね?
僕…だ…大…大ファンなんですっ!」


何て、たまたま持っていた楽譜の表紙にサインを求めてくる店員さん。

せっかくだから、その曲を即興でアレンジして弾いた。
電子ピアノで鍵盤が足りなかったから、アレンジせざるを得なかったんだもん。

感激している店員さんをよそに、店を出ると、美月さんはそこにいた。


「和之さんなら、ここにいるかなぁって…思ったんです。」


なんて言ってきた。