「欲情した?」
フッとそれまでの空気が緩んで、はじめてわたしは男が笑っていたことを悟る。
それも、いつものまるっきりの嘲笑ではなくて、悪戯が成功した子どもみたいな笑顔。
「…なに馬鹿なこと言ってんの」
心ともなく見とれてしまった恥ずかしさに目をそむければ、フッではなくクツクツでもなくもはやクックックとますます笑みが深まっていく。
「照れちゃって。可愛いの」
きらりと銀のチタンフレームが反射して、その奥のグレーの瞳と視線が絡み合う。
「っ」
ますます羞恥に頬が赤く熱をもつ。
鋭い眼光に射られて、たしかに逃げ出したいと思うのに。
なぜだかわたしは金縛りにあったように動けなかった。

